耐震診断は、地震に備えて建物の安全性を評価する重要な検査です。日本では、過去に起こった地震をきっかけに耐震基準の見直しが行われており、旧基準で建てられた建物に対しては耐震診断を行う必要があります。建物の安全性を確認し、必要な補強を行うことは命を守るために必要不可欠です。
当記事では、耐震診断の概要や必要性、診断方法について詳しく解説します。耐震診断を検討している方はぜひご覧ください。
1.耐震診断とは?
耐震診断とは、既存の建築物が地震に対してどの程度の耐震性を持っているかを評価するための検査です。特に、1981年以前の「旧耐震基準」で建てられた建物が、現行の「新耐震基準」を満たしているかどうかを確認することを目的としています。
耐震診断を通じて建物の構造的な弱点が明らかになれば、必要な補強工事の方針を検討しやすくなります。地震発生時に倒壊のリスクを減らし、命を守るための備えとして、耐震診断の実施は非常に重要です。
1-1.耐震診断の必要性
日本は地震が頻発する国であり、大きな被害が発生するたびに耐震基準は見直されてきました。1981年に導入された新耐震基準に基づいて建てられた建物は、震度6強から7の地震に耐える耐震設計がされています。しかし、旧耐震基準で建てられた建物には、十分な耐震性能が備わっていないケースが少なくありません。
たとえば、1995年の阪神淡路大震災や2016年の熊本地震では、旧耐震基準で建てられた木造家屋が大きな被害を受け、多くの建物が倒壊しました。これらの災害をきっかけに、旧基準で建てられた建物に対して耐震診断を行い、必要に応じて耐震補強を施すことが求められるようになりました。
また、新耐震基準で建てられた建物であっても、年月の経過により建物が劣化するのは避けられません。劣化が進んだ建物は、地震時に期待される耐震性能が低下している恐れがあります。そのため、築年数が経過している建物は積極的に耐震診断を受け、必要に応じてメンテナンスや補強を行うことが大切です。
1-2.耐震診断にかかる費用
耐震診断方法には「簡易診断」「一般診断」「精密診断」の3つがあり、それぞれでかかる費用が異なります。簡易診断はセルフチェックのため無料ですが、信頼性は低めです。正確な結果を知りたいなら、専門家による一般診断か精密診断にしましょう。
一般診断は、外観や図面をもとに建物の耐震性を評価する簡易的な診断で、費用は10万円からが目安です。一般診断では、建物の図面や工事履歴を参考に、壁を壊すことなく目視で現状を確認し、耐震補強が必要かどうかを判断します。
精密診断は、建物内部まで調査するより詳細な診断で、費用は20万円からが目安です。精密診断では、必要に応じて壁などを壊して構造を詳しく調べ、補強が必要な場所やその方法を具体的に示します。
一般診断で耐震性に不安があると判定された場合に精密診断を行うのが一般的ですが、初めから精密診断を選ぶことも可能です。建築士へ依頼する際には、複数の業者から見積もりを取り、耐震診断費用やサービス内容を比較することが重要です。
2.耐震診断の基準値
耐震診断では、建物の耐震性能を評価するために基準値が用いられます。基準値には「Is値」と「Iw値」の2種類があり、それぞれ建物の構造や素材によって使用される指標が異なります。
Is値は鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物の診断に使用され、Iw値は主に木造住宅が対象の基準値です。どちらも数値が高いほど耐震性が高いとされ、算出された結果に基づいて補強の必要性が判断されます。
2-1.Is値
Is値は、鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物における、震度6強~7の地震に対する耐震性能の指標です。Is値は、建物の強度と粘り強さを考慮して算出され、建物の階ごとに評価します。
Is値は、建物の保有している耐震性能を示す「E0」、建物の変形性能を考慮した「SD」、そして経年劣化を反映する「T」を用いて計算されます。計算式は次の通りです。
Is値=E0×SD×T
Is値の数値が高いほど、地震に対する安全性が高いと判断されます。Is値の安全性の目安は以下の通りです。
0.3未満 | 耐震性が極めて低く、倒壊や崩壊の危険性が高い |
---|---|
0.3~0.6未満 | 耐震性が不十分で、倒壊や崩壊の危険性がある |
0.6以上 | 耐震性が確保されており、倒壊や崩壊の危険性が低い |
2-2.Iw値
Iw値は、木造住宅における震度6強~7の地震に対する耐震性能の指標です。Iw値は、建物が持つ保有耐力である「Pd」と、地震で倒壊しないために必要な必要保有耐力を表す「Qr」を用いて計算されます。計算式は次の通りです。
Iw値=Pd/Qr
Iw値もIs値と同様に、数値が大きいほど耐震性が高いと判断されます。Iw値の安全性の目安は以下の通りです。
0.7未満 | 耐震性が極めて低く、倒壊や崩壊の危険性が高い |
---|---|
0.7~1.0未満 | 耐震性が不十分で、倒壊や崩壊の危険性がある |
1.0以上 | 耐震性が確保されており、倒壊や崩壊の危険性が低い |
3.耐震診断の流れ
耐震診断は、一般的に3つの段階を経て行われます。まず、資料をもとにした予備調査が行われ、次に現地での現地調査が続き、これらの結果を元に最終的な診断が行われる流れが一般的です。具体的な調査内容は木造か鉄骨かによって異なりますが、基本的な流れは共通しています。以下では、耐震診断の流れを段階ごとに解説します。
3-1.予備調査
予備調査は、建物の基礎的な情報を収集し、耐震診断の具体的な計画を立てるための初期段階です。
予備調査では、設計図や構造計算書、検査済証などの資料をもとに建物の概要を把握し、診断の計画を立てます。たとえば、建物の延床面積や構造種別、築年数などです。また、増改築の有無や被災経験といった建物の履歴も確認します。
予備調査の結果をもとに、必要な診断レベルや調査範囲を設定し、診断にかかる費用や時間の見積もりを出します。なお、設計図や構造図がない場合には、現地調査の際に実測しなければなりません。追加の時間やコストがかかるため、事前にできるだけ多くの資料を集めておくことが大切です。
3-2.現地調査
現地調査では、予備調査で集めた資料と実際の建物の状況を照合し、建物の現況を詳しく確認します。木造住宅や鉄筋コンクリート造など、建物の構造によって調査方法は異なりますが、以下の調査項目はおおむね共通です。
・外観調査
建物の外壁や基礎部分にひび割れがないか、地盤沈下や建物の傾きがないか、屋根の状態はどうかなど、建物外部の損傷や老朽化を目視で確認する調査です。特に基礎部分の状態は耐震性能に大きく影響するため、慎重に調査が行われます。
・内部調査
壁や床下、天井裏などの内部構造を確認します。内部調査でチェックするのは、耐力壁の有無や配置のバランス、柱や梁の接合部の状態、傾きレベルの調査などです。目視やレーザー・センサーを使用した非破壊調査が基本ですが、必要に応じて壁を一部解体する破壊調査を行う可能性もあります。
・建材の調査
木造住宅の場合は、基礎や土台部分のシロアリ被害や腐食の有無を確認しなければなりません。鉄筋コンクリート造の場合は、コンクリートの強度や劣化状態の調査です。コンクリートコアを採取し、強度試験や中性化試験を行うケースもあります。
現地調査の結果は、耐震性の診断において重要なデータです。
3-3.診断
診断は、予備調査と現地調査の結果を元に、建物の耐震性能を最終的に評価する段階です。建物が現行の耐震基準を満たしているかどうかを判定し、耐震化の必要性が判断されます。
建物全体の耐震性を判定する基準は、建物の「壁量」や「耐力」、「壁の配置バランス」などを計算して算出された数値です。木造住宅の場合はIw値、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合はIs値で示されます。
診断の結果、耐震性が不十分と判断された場合、耐震改修工事が必要です。耐震診断書に基づいて、どの部分にどのような補強方法が適切かを検討し、具体的な耐震リフォームの計画を進めましょう。
まとめ
耐震診断は、建物の耐震性能を評価し、地震による倒壊を防ぐために欠かせないステップです。日本は地震の多い国であり、決められた耐震基準を満たせているかどうか、定期的に確認することが大切です。耐震診断の結果に基づいて補強工事を行うことで、住まいの安全性を確保し、地震に対する備えを強化できます。
耐震診断は自分でチェックする簡易診断という手段もあるものの、正確な診断結果を得るためには専門家による一般診断や精密診断を依頼しましょう。