制震ダンパーは耐震補強と組み合わせるべき?ダンパーの種類も解説

南海トラフ地震が今後30年以内に発生する確率が80%とされる中で、地震に強い家づくりは重要になっています。建物の耐震技術が進歩し、さまざまな地震対策が研究・実用化されている今、地震エネルギーを吸収して揺れを抑える「制震ダンパー」を取り入れた住宅も増えている状況です。

この記事では、制震ダンパーとは何か、耐震性能の高い住宅と組み合わせるメリット、代表的な耐震バンパーの種類について解説します。より安心な住まいづくりのため、リノベーションを考えている方はぜひ参考にしてください。

 

1. 制震とは

制震とは建物の骨組みに制震装置を設置し、地震のエネルギーを吸収する技術であり、制震技術を取り入れて設計された構造を制震構造と言います。ダンパーやおもりなどの制震装置が地震のエネルギーを吸収することで、建物の揺れを小さくする仕組みです。

地震発生時の安全性を高めるための方法には、制震のほかに「免震」や「耐震」があり、各手法を組み合わせることで、さらに地震に強い家づくりができます。制震と免震、耐震との違いは以下の記事で詳しく解説しているため、気になる方はぜひ確認してみてください。

免震・耐震・制震の違いとは?特徴やメリット・デメリットを解説

 

1-1. 制震ダンパーとは

制震ダンパーとは、制震構造の建物において壁や柱、床といった接合部に設置される制震装置のことです。建物に伝わった振動エネルギーを吸収して別のエネルギーに変換し、地震による建物の揺れや構造体の変形・破損を軽減するという役割を担っています。

また、制震ダンパーは1回の地震で完全に破損する装置ではないため、地震が繰り返し発生しても揺れを軽減できるという特徴があります。地震が多い日本においても、制震構造の建物では地震によるダメージが構造体に蓄積しにくいことを押さえておきましょう。

 

2. 耐震性が高い家なら制震ダンパーは意味がない?導入メリットは?

耐震性が高い住宅は地震の揺れに耐えられるよう頑丈なつくりをしていますが、地震の揺れを直接受け取るため、ダメージが建物に蓄積しやすいというデメリットがあります。実際に、日本における過去の大地震では、耐震構造を採用した住宅でも、本震による大きな揺れや継続する余震に耐えられず倒壊・損傷してしまうケースが多数ありました。

一方、制震ダンパーは地震の振動を吸収して伝わる揺れを小さくし、建物に蓄積するダメージを抑えるという特徴があります。制震ダンパーを耐震性能が高い住宅に導入することで、地震対策をより一層強化できるでしょう。ここでは、高い耐震基準を満たす住宅が制震ダンパーを導入するメリットについて詳しく解説します。

 

2-1. 建物の耐久性が高まる

制震ダンパーを導入する大きなメリットの1つとして、建物の耐久性が高まることが挙げられます。

制震ダンパーを建物に設置することで、建物の骨組みや構造体に地震の振動が伝わりにくくなり、地震エネルギーによるダメージが建物に蓄積されにくくなります。2階建て以上の建物だけでなく、平屋、高天井や吹き抜けを採用した住宅でも効果が発揮されることを押さえておきましょう。

ただし、制震ダンパーの能力を長期にわたって維持するためには、定期的なメンテナンスが必要な場合もあります。安定した制震性能を長期間キープするためにも、メーカーが規定するメンテナンス周期を事前に確認し、定期的に点検するようにしましょう。

 

2-2. 免震よりローコストで導入できる

地震の振動を特殊な装置が吸収し、建物の揺れや被害を軽減する技術には制震以外に「免震」もありますが、制震には免震よりローコストで導入できるというメリットがあります。

制震構造では壁や柱などの接合部に制震ダンパーを設置しますが、免震構造では建物の基礎部分に免震装置を設置する必要があります。業者や建物によっては設置や施工が難しい場合もあるため、新築住宅で免震構造を導入する場合は1棟あたり200万~300万円ほど必要となるケースも少なくありません。

一方、新築住宅に制震構造を導入する場合、1棟あたり50万円前後で追加できるケースがほとんどです。免震構造と比べると導入コストを大幅に抑えられるでしょう。

 

2-3. 台風への対策につながる

制震構造は制震ダンパーによって建物の揺れが軽減されるため、台風などの強風による建物の揺れにも強いというメリットがあります。

建物の揺れを軽減する技術には「免震」もありますが、免震構造の場合は建物の基礎と地盤の間に免震装置が設置されています。地上に吹く強風は建物の地上部を直接揺らすため、免震構造の建物では台風の強風による建物の揺れを軽減することは難しいでしょう。

一方、制震構造の場合は建物の壁や柱、床などに振動を吸収する制震ダンパーを設置するため、強風による揺れを軽減することも可能です。台風の接近が多いエリアや、海に近く強い風が吹きやすいエリアに住宅がある場合は、制震ダンパーの導入が向いていると言えるでしょう。

 

3. 制震ダンパーの種類

制震構造の制震装置として主に用いられる制震ダンパーですが、使われている材質によって「粘弾性体ダンパー」「鋼材ダンパー」「オイルダンパー」の3種類に分けられます。それぞれの種類ごとに特徴やメリット・デメリットが異なるため、自宅に適した種類を選ぶことが大切です。ここでは、制震ダンパーの種類とそれぞれの特徴について解説します。

 

3-1. 粘弾性体ダンパー

粘弾性体ダンパー(弾性ダンパー)とは、弾力性や伸縮性の高い素材を使用したダンパーのことです。粘弾性体ダンパーには、ゴムやシリコン、アクリル、アスファルトなどが用いられます。

粘弾性体ダンパーのメリット 粘弾性体ダンパーのデメリット
  • 導入コスト(初期費用)を抑えられる
  • メンテナンス周期が長い
  • 繰り返しの振動や震度の小さな地震にも効果がある
  • 温度の変化に弱い
  • サイズが大きく施工場所が制限される
  • 設置に人手や費用がかかりやすい
  • 大規模な工事になりやすい

粘弾性体ダンパーのメンテナンス周期は数十年と長く、メンテナンスの必要がほとんどない製品もあります。繰り返し発生する地震に強いことも大きなメリットと言えるでしょう。

一方、ゴムなどの粘弾性体は、温度変化が激しい環境条件では劣化しやすく、十分な制震性能を発揮できない可能性があります。施工場所や間取りが制限されたり、後付けする場合は作業や設置コストが大規模になったりすることにも注意が必要です。

 

3-2. 鋼材ダンパー

鋼材ダンパー(金属ダンパー)は、鋼などの金属で作られた制震ダンパーです。振動によって金属が曲がる力を熱エネルギーに変えることで、地震による建物の揺れを抑えます。

鋼材ダンパーのメリット 鋼材ダンパーのデメリット
  • 大きな揺れで効果が発揮される
  • 定期的なメンテナンスは不要
  • トータルコストを抑えられる
  • 他のダンパーと比べて耐久性は低い
  • 小さな揺れや強風による揺れへの効果は低い
  • 繰り返し発生する地震に弱い傾向がある

大型地震への対策として採用されるケースが多い鋼材ダンパーは、他の種類のダンパーと比べてシンプルな構造をしています。定期点検がほぼ不要でメンテナンス性が高いため、トータルコストを抑え安い点がメリットです。

一方、鋼材ダンパーは、大地震の後の余震などで何度も金属の変形を繰り返すと、金属疲労により破損するリスクがあります。一定以上の振動でなければ熱エネルギーに変換できないため、揺れ幅が小さい地震や強風による振動に弱い傾向があることにも留意しましょう。

 

3-3. オイルダンパー

オイルダンパー(油圧式ダンパー)は、オイルとピストンが入った筒状の制震装置です。オイルが入った筒(シリンダ)の中で、ピストンが振動に合わせて移動する際に、オイルの抵抗がエネルギーを吸収することを利用して揺れを抑えます。

オイルダンパーのメリット オイルダンパーのデメリット
  • 対応できる揺れの幅が広い
  • 間取りの制限を受けにくい
  • 後付けしやすい
  • 他の種類のダンパーと比べて高価なものが多い
  • 十分な設置本数が必要
  • オイル漏れの発生がないか点検する必要がある

オイルダンパーは小さな揺れから大きな揺れまで幅広く対応しており、台風などの強風にも制震効果を発揮します。サイズが小さいため間取りの制限を受けにくく、既存住宅に後付けしやすい点も大きなメリットと言えるでしょう。

オイルダンパーは普及に伴い価格が下がってきているものの、他の種類のダンパーと比較すると高価なものが多い傾向があります。効果を発揮するためには設置数が必要であり、オイル漏れがないか定期的に点検する必要があることにも注意しましょう。

 

まとめ

制震ダンパーは、建物の揺れを低減し、繰り返し発生する地震や台風によるダメージを抑えられる有効な手段です。粘弾性体や鋼材、オイル式など複数の種類が存在し、それぞれコストやメンテナンスの頻度に違いがあります。ただし、いずれの場合でも制震構造を導入する費用相場は約50万円と比較的ローコストであり、導入しやすいのが特徴です。

近年は製品の高性能化や普及に伴う価格の変化も進んでおり、新築・リフォームを問わず導入しやすい環境が整いつつあります。建物の長寿命化や資産価値の維持にもつながるため、将来を見越した住まいづくりの一環として、専門家と相談しながら最適な方法を検討してみましょう。