地震大国である日本では、地震から家を守るために耐震補強工事が必須です。特に1981年以前に建てられた住宅は、震度5以上の地震への対策が不十分な可能性があるので、十分な耐震性を備えているか確認するのが大切と言えます。木造住宅の場合はRC造の住宅よりも劣化スピードが速いため、建築時には十分な耐震性を備えていたとしても、定期的な耐震補強を考えましょう。
この記事では、木造住宅に耐震補強をする流れや、耐震補強を木造住宅に施す費用相場を解説します。
1.耐震補強が必要な木造住宅の特徴
耐震補強が必要な木造住宅には、共通する特徴がいくつかあります。まず、1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅は、震度5を超える地震の発生を前提としていないので、基本的に耐震性能が低く耐震化が必要です。南側に大きな縁側がある家や、和室の間がふすまのみで仕切られる部屋の多い、純和風の木造家屋が当てはまります。特に、築40年以上経過している家は、耐震リフォーム工事を検討したほうがよいでしょう。
1階に広い部屋がある家や、ガレージが併設されている家は、柱や壁が少なく構造的に耐震性が弱い恐れがあります。さらに、外壁にひびが入っていたり、家全体が傾いたりしている場合、地震時に被害が拡大しかねません。このような特徴が見られる木造住宅は、早めの耐震診断をおすすめします。
2.木造住宅が耐震補強をする流れ
木造住宅で耐震補強を行う際には、工事の内容にもよりますが、目安として以下の時間がかかります。
耐震診断 | 約2~3週間 |
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耐震診断設計 | 約2~3週間 |
補強工事 | 約1週間~1か月 |
合計で2~3か月程度の期間がかかることを見越して、スケジュールを立てましょう。耐震診断から補強工事までの流れは、以下の通りです。
2-1.耐震診断を受ける
耐震補強を始める際、最初に耐震診断を受けます。耐震診断は、建築物の強度や耐震性を評価し、どの程度補強が必要かを確認するために重要なステップです。診断には「簡易診断」「一般診断」「精密診断」の3種類があり、住宅の状態や規模に応じて適切な診断方法を選びます。
耐震診断では、図面などを確認する予備調査を行った後、現地調査で専門家が建物の壁や柱、基礎の状態などを直接チェックします。診断の結果、耐震性能が数値化された「評点」に基づいて、補強の必要性が判断されます。
なお、自治体によっては補助金や助成金の対象となるため、診断を依頼する前に相談窓口などで申請方法を確認するとよいでしょう。
2-2.耐震診断設計を依頼する
耐震診断の結果を受けて次に行うのが、どの部分をどのように補強するかを設計するプロセスです。設計では、耐震性能の数値(評点)を確認し、補強が必要な箇所を特定します。診断評点の意味は以下の通りです。
1.5以上 | 倒壊しない |
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1.0~1.5未満 | 一応倒壊しない |
0.7~1.0未満 | 倒壊の可能性がある |
0.7未満 | 倒壊の可能性が高い |
評点が1.0未満の場合、補強が必要です。耐震補強設計では、耐震性を向上させるため耐力壁の増設や柱・梁の補強が計画されます。強度に偏りがあるとかえって耐震性を低下させる場合があるため、建物のバランスを考慮して耐震補強計画案を作成しなければなりません。設計段階で耐震工事の詳細や使用する素材が決まり、それに応じた日程も策定されます。
2-3.補強工事を実施する
耐震設計に基づき、実際の補強工事が始まります。工事の内容は、壁や基礎の補強、屋根の軽量化、柱や梁の接合部の補強などです。たとえば、壁の補強では耐力壁を増設して耐震性を高めます。また、重い瓦屋根を軽い素材に変更して屋根の軽量化を図り、地震時の被害を軽減するなどです。
小規模な補強工事であれば住みながら行えますが、大規模な工事になると一時的な仮住まいが必要な場合もあります。工事が始まった後は、補強箇所が図面通りか、進行に問題がないかチェックすることが重要です。
3.木造住宅の耐震補強の方法と工事にかかる費用の相場
木造住宅の耐震補強にかかる工事費用は、一般的に平屋建て・2階建ての住宅で100万~150万円程度が目安です。耐震改修工事費の目安は、それぞれ以下の式で計算できます。
平屋建て | 12.0×延べ面積(平方メートル)^0.56 |
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2階建て | 12.1×延べ面積^0.58 |
また、耐震診断の結果をもとに、評点に応じた費用相場も参考にすると、より具体的な予算が分かります。計算式は以下の通りです。
7.94×(評点差×延べ面積(平方メートル))^0.69
出典:一般財団法人 日本建築防災協会「耐震改修工事費の目安」
たとえば、100平方メートルの平屋建てで工事前後の耐震評点差が0.5なら、費用の目安は120万円程度となります。
ただし、計算式はあくまでも目安程度です。耐震目的で住宅の基礎・壁・屋根などすべてをまとめてリノベーションする場合は、350~800万円程度の工事費がかかる可能性もあります。
以下では、各耐震補強工事の費用相場について解説します。
3-1.耐震診断の費用相場
簡易診断は無料で行えるセルフチェックですが、正確な診断を求める場合、建築士による一般診断や精密診断が必要です。各診断費用の相場は以下の通りです。
工事名 | 費用相場 |
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簡易診断 | 無料 |
一般診断 | 約10万円~/120平方メートル |
精密診断 | 約20万円~/120平方メートル |
耐震診断は、図面や現地調査で耐震性能を確認します。一般診断は目視による調査が中心で、壁は壊しません。精密診断は、特殊な機材を用いたり壁を壊したりして詳細に調査し、補強が必要な箇所や補強方法を確定します。構造図がない場合は、現地での追加調査が必要です。
3-2.基礎の補強
基礎補強工事は、建物の安定性を保つための重要な工事です。ひび割れの修復から基礎全体の補強まで、さまざまな方法があります。各工事費用の相場は以下の通りです。
工事名 | 費用相場 |
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ビックス工法 | 約1万~2万円/1か所 |
Uカットシール工法 | 約4,000~6,000円/メートル |
アラミド繊維シート補強 | 約2万~3万円/メートル |
コンクリート増打ち工事 | 約4万~6万円/平方メートル |
炭素繊維シート補強 | 約6,000~9,000円/平方メートル |
基礎交換工事 | 約200万円~ |
基礎の劣化状況や施工範囲によって費用は大きく変動します。ひび割れ補修は比較的安価ですが、基礎の増打ちや基礎交換工事など、本格的な補強は高額です。
3-3.はり・土台・柱・筋交いなど接合部の補強
柱やはり、筋交いなどの接合部を強化し、建物の耐震性能を向上させる工事です。主に金具や耐震パネルを用いた補強が行われます。各工事費用の相場は以下の通りです。
工事名 | 費用相場 |
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耐震金具取りつけ | 約40万円/10か所 |
耐震パネル設置(柱と土台) | 約65万円/1か所 |
柱追加 | 約100万円~/1か所 |
柱や接合部の追加・補強では、内装・外壁の解体と仕上げ工事が必要になります。たとえば、耐震金具1個当たりの取りつけ費用は3万円程度です。しかし、一度壁を取り除いてから工事するため、10か所補強する場合、10万円程度の壁補修費用が追加されて計40万円程度になります。
3-4.筋交いの追加や壁の補強
柱と柱の間に筋交いを追加したり壁を補強したりして、地震時の横揺れに対する強度を高めます。また、外壁への補強材(ブレース)取りつけも有効です。各工事費用の相場は以下の通りです。
工事名 | 費用相場 |
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筋交い設置工事 | 約15万~25万円/1か所 |
耐力壁追加 | 約7万~12万円/1か所 |
外壁への補強材(ブレース)取りつけ | 約40万~50万円/3か所 |
壁の補強には内装から行う方法と外装から行う方法があります。外装を壊したくない場合や工期を短くしたい場合は、外壁の補強材を使うのが効果的です。
3-5.屋根の軽量化
屋根の一部または全体を軽量化することで、建物全体の耐震性を向上させます。瓦屋根をスレートやガルバリウム鋼板、防災瓦に葺き替える方法が代表的です。各工事費用の相場は以下の通りです。
工事名 | 費用相場 |
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瓦からスレート屋根へ | 約120万~160万円 |
瓦からガルバリウム鋼板へ | 約160万~200万円 |
防災瓦への葺き替え | 約130万円~所 |
瓦の葺き直し | 約70万円 |
足場設置 | 約1,000~1,200円/平方メートル |
屋根の軽量化は、屋根材の種類や工事内容によって費用は大きく異なります。また、足場の設置費用が別途必要です。葺き替えは防水性の高い「防災瓦」などの選択も可能で、地震対策と見た目を両立させる工法が注目されています。
まとめ
築40年以上の家、広い1階部分がある家、柱や壁が少ない家は耐震補強が必要になりやすいので、一度耐震診断を受けるのがおすすめです。住宅の安全性を高めるため、早めに耐震診断を受け、耐震補強工事を検討してください。
木造住宅の耐震補強の費用は住宅の規模や劣化状況、補強の内容によって異なりますが、平屋建て・2階建ての住宅で100万~150万円程度が目安です。自治体によっては助成金や補助金制度があるため、各自治体の窓口に耐震補強工事の補助制度がないか問い合わせるとよいでしょう。